夫婦ユニットからうまれるナチュラルで温かみのある器『カマノツボ制作室』
俊彦窯の五代目シミズタケシ・サトコの夫婦ユニットである『カマノツボ制作室』。
シンプルで、現代の暮らしにマッチしながらも、どこか懐かしい気持ちにさせてくれるそんなあたたかい雰囲気の器が揃います。
代表的な作品として「泥彩」「砂化粧」があり、優しい温かみと手に馴染む使いやすさが魅力です。
これらの作品がどのような工程を経て作られているのか。
また、どのような思いで作られているのか。
できあがった器を見るだけではなかなか感じることのできない その作品の裏側を当ショップのお客様にも知って頂きたく記事にしました。
温かみのある作風の原点。土練り
まずはじめに、土練りを見せてくださいました。
「お母さんの方がきれいだからね。」
と、タケシさんが言うと、ハニカミながらも袖をまくり上げ、
足を開いて台の前に立ち、ぐっと粘土に体重をかけて一気に土を練り始めるサトコさん。
工房には、ピンと引き締まった空気が流れ、
力強く土を練る音だけが響いていました。
みるみる菊の花の形に練られていく土の様子は、
思わず「おおー!」と声が漏れるほど。
この工程は『菊練り』といい、
陶芸の世界では、「菊練り3年」と言われているほど難しく大変で、大切な工程です。
生産性を考えれば、機械を使う事もできるそうですが、こちらでは人力での「練り」を続けているそうです。
私は、そこにも作り手のぬくもりが込められているのではないかと思いました。
夫婦でもあり仲間でもある関係
私は、ご夫婦の様子を拝見していて、
お互いが「得意」を尊重し合い作陶していることに気づきました。
「ちょっと今日の土はやわらかいね」
何気ない会話からも、日々土と向き合っている光景がうかがえます。
作り手の当たり前が新鮮
「5?」
「8?」
「薄いの足して」
二人の間で数字が飛び交い、
サトコさんは何やら細長い板を束にしていました。
工房ではいつもの会話のようですが、
こちらからは呪文のようしか聞こえません。
作るものに合わせて形を整えた後、次に使うのがこの板。
粘土の塊から同じ厚みの粘土板を作るときに使用する道具で、
『タタラ板』といいます。
ピンと糸を張り、タタラ板に沿って粘土を切っていきます。
集中力が必要な作業。また静かな時間が流れていました。
これらの工程も含め、工房に並べられたたくさんの道具も、
私たちにはとても新鮮で興味深いものばかり。
思わず写真を撮っていると、
「そんなのが気になるんだ。」と作り手側は逆に驚いていました。
成形
成形には、タタラと、ろくろがあります。
ろくろで回る土を均一に、手早く、美しく器の形に仕上げていく様は、
長年の経験の賜物。「さすが」としか言いようがありません。
撮影時、一つ前に作っていたものを間違って作ってしまったそうですが、
作り続けることで手に染み付いてしまう感覚に私は感心しました。
また、タタラ成形は見えない気配りがあることに気付かされました。
大まかなフォルムは型でできますが、補強をし、均一の大きさ・厚みに整え、
乾燥や焼きでの縮みを考慮して形を仕上げていきます。
もちろん手作業で、一つ一つ。
ここまででも器作りの工程の多さを改めて感じました。
マグカップに付ける取っ手もひとつとひとつ土をひねり出して手作りされています。
取っ手と本体を接合する部分もしっかりつけないと剥がれやすく神経を非常に使うところだそうです。
工房には次の工程を待つものがあちこちに並んでいます。
先程も言いましたが、器作りは作業工程が多いです。
できるだけ同じ日に同じ工程をしたい。
そのために、納期、制作時間、個人のスケジュールを
日々考えながら作業を進めているそうです。
そんな過密スケジュールにも関わらず、
今回の取材に快く時間を割いてくださり、
本当にありがとうございます。
「ピンポーン ピンポーン」
工房にチャイムが鳴り響きます。
ギャラリーにお客が来たようでした。
サトコさんは、さっと手を止めてお客様のもとへ。
わざわざ足を運んでくださった大切なお客様。
何気ない会話も器作りに必要なことの一つと
いつも笑顔で丁寧に接客されています。
さすがですね。
こだわり
形ができれば、次は見た目が決まる大事な装飾です。
泥彩の模様は筆ではなく、平らなナイフで施していました。
※動画
下に垂れないのか心配になりましたが、それももちろん考慮し、
ちょうどいいかたさに調合しているそうです。
器を回しながら手際よく化粧を塗る様子はまるでケーキにクリームを塗るパテシエのようです。
ここで一度乾かし、低温で素焼きしてから次の工程へ移ります。
苦心の賜物
釉薬も、独自で調合し、試験を繰り返して作られています。
つくり手のこだわり・個性を感じるところの一つです。
釉薬について説明する姿は、自信に満ち溢れているように見えました。
どのようにこの模様ができたのか、
どのようにこの色がでたのか。
その秘密を知ると器作りの奥深さを感じ、愛着へもつながりますね。
ちなみに成形 → 素焼き(800度程度) → 釉掛け → 本焼き(1300度程度)
という工程を経ますが、なぜ素焼きをするのか以前から少し謎でした。
それは素焼きをせずに釉掛けすると、
せっかく成形したものが水分を含んでしまってまた元に戻ってしまうからだそうです。
確かに、、。小さい頃砂遊びでできたものも水をかけたら元に戻りますものね。
改めて、工程の多さに頭が下がります。
釉薬の塗り方も様々で、
全体に塗ったと思えば、わざわざスポンジで拭き取っていました。
ここで器の表情を作っているのですが、
まったく想像ができず、仕上がりがどうなるのかワクワクさせられます。
内側にも釉薬をかけてあり、この時点の色は紫っぽい色ですが、
鉄分が含まれたこの釉薬は、
熱を加えると、なんとこのような表情になります。
(写真は泥彩湯呑)
緊張の瞬間
人がすっぽり入ってしまいそうなほど大きな電気窯。
(小柄な人だと窯入れの時に足が浮いてしまうそうです。陶芸家あるある、、だとか?)
ここで時間をかけて焼成していきます。
焼成温度は約1300度。普通では想像できないほどの高温で焼成されます。
1日~2日程度焼成された後、じっくり冷却期間を置いてから取り出します。
伝わる作家の想い
いよいよ緊張の瞬間。重い蓋を開けます。
熱が加わった器はまるで別物のようになって出てきます。
納得の出来になるまでに、たくさんの工程を経て、
どれだけ試行錯誤したでしょう。
■【俊彦窯】湯呑み/泥彩/白
このような温かみのある形となって、ようやく皆様方にお使いいただける器となります。
見た目はシンプルながら、人の手を加えることで感じられる温かみやゆらぎこそカマノツボ制作室の特徴。
今回取材をさせていただいて、
ご夫婦のやりとりや、工房の様子から、
あのすてきな器が生まれた背景を感じました。
これから、二人の作る器を手にとった時に伝わるものが
変わってきそうです。
私たちを見送ってくださる際、ポストに届いていた一通の葉書。
隠しきれない喜びが、タケシさんの表情からうかがえました。
様々なことに挑戦しているシミズタケシさんの活躍は、多くの人に注目・称賛されています。
これからの活躍も楽しみですね。